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設計者コラム

#004 レンズ設計:ペッツバール和改善事例(1)

前回のコラムから随分日数が経過してしまいました。
なかなか、『コレ』と思う事例が無いのと気力の問題です(笑)。

さて、前回はペッツバール和という像面湾曲を支配する光学指標の一つについてご説明いたしました。
ペッツバール和を改善するには前回の後半で書きましたように、焦点距離がプラスのレンズ(凸レンズ)には屈折率がなるべく大きなガラスを使用し、凹レンズには屈折率がなるべく小さなガラスを使用することが効果的です。
他にもペッツバール和を改善する方法はありますが、今回はこの事例について説明したいと思います。

カメラに詳しい方ならテッサ―と呼ばれるレンズについて耳にしたことがあるかと思います。
調べますと1902年にカールツァイスから発表された写真用レンズで、当時かなりの高性能ぶりを発揮してレンズ市場を席巻したようです。
構造的にはトリプレットと呼ばれる凸凹凸三枚構成のレンズの最終レンズを、下図のように凹凸の貼り合わせレンズに置き換えた形をしています。

テッサ―のレンズ構成
オリジナルの特許を調査したところ、US721240にそれらしき特許を見つけることが出来ました。
使用されている硝材に関する情報を特許から見てみますと、現在SCHOTT社で販売されている硝材に完全に合致するものは見当たりません。
100年以上前のレンズに使用されていたガラスなので致し方ないと思います。
しかしながら屈折率、アッベ数といった指標が近い、現在のカタログに載っている硝材を示したのが下の表です。


硝材の表
上の表で第3レンズ、第4レンズは貼り合わせレンズです。
通常、貼り合わせレンズと言いますと、色収差の補正に使用されるというイメージが先行しがちです。
しかし第3.4レンズのアッベ数はそれぞれ51.5と55.9で数値的にはとても近傍です。
色収差を効率的に補正するにはアッベ数をもっと異なった数値に設定しなくてはならないので、この貼り合わせレンズは色収差補正を狙ったものではありません。
では次に第3,4レンズの屈折率を見てみます。凹レンズである第3レンズの屈折率が低く、凸レンズである第4レンズの屈折率が相対的に高くなっていますね。
これは冒頭に書いたペッツバール和の改善手法に合致しています。
ですので、トリプレットで問題になった像面湾曲を緩和するため、ペッツバール和を少しでも小さくする目的で貼り合わせレンズにしたというのが(多分ですが)真相です。

どうでしょうか?このようにレンズデータを読むと作り手の考えが想像できて面白くありませんか?

次回以降、何回か他のペッツバール和改善方法について説明していく予定です。