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設計者コラム

#002 Russar(ルサール)復活

皆さんこんにちは

コラムの運営を始めると、『ネタが無い、どうしよう?』と結構プレッシャーがかかります。
まだ2回目なので、プレッシャーも何もありませんけど…、先が思いやられます。

さて何とも古いレンズの復活です。
トイカメラで有名なロモグラフィーが Russar 5.6/20 を復活させるとのニュースを読み、ビックリしました。

ルサールと言えば広角対称形のレンズの一つとして大変有名で、ロシアのRoosinov(他にもRusinovという表記も有り。恐らくキリル文字からラテン文字へ転記する際に生じたバリエーション。)による発明です。
私は所有しておりませんが日本でも人気があり、中古市場でも結構なお値段がします。それが新品で購入できるわけですから、喜んでいる方々もいらっしゃると思います。

ルサールは広角レンズで、絞りに対して左右対称のレンズ構成を持つ『対称形』と呼ばれるレンズの一つです。
一般的には対称形レンズは各種収差の補正が割合簡単なのでそのためか、かなり昔から採用されているレンズ構成方法です。特にルサールは歪曲収差(ディストーション)が少ないとの評判があり、建物の写真を撮影することが好きな私としては放っておけません。

そこで光学性能の調査です。

さて、光学性能の調査開始です。
1946年に米国特許を取得しているとのことなのでデータをダウンロードしてみましたが、焦点距離59.4mm, Fナンバー18のレンズしか見つかりません。私の探し方が悪かったのかもしれません。出回っているRussarおよび復活するRussarは上記のように焦点距離20mm, Fナンバー5.6ですから全くの別物です。但しレンズ構成は似ています。

仕方がないので書籍で公開されているデータを光学CADに入力してみました。使用させていただいた書籍およびデータは、

『レンズ設計のすべて』、辻定彦著、P.259

です。
まずはレンズ構成図です。


図示しませんが、最終レンズから撮像素子面までの間隔が11mm弱しかありません。所謂一眼レフはココの間隔として概ね45mm以上は必要ですので、このレンズは一眼レフタイプのカメラには使用できないことが分かります。しかしながらミラーレスタイプのカメラには使用できそうです。
また、撮像素子の中心から離れた位置に入射する画角のついた光線束はかなりの急角度で撮像素子面に入射していますね。
CCDやCMOSといったデジタルカメラに搭載されている撮像素子は一般的にテレセントリック性と呼ばれる条件をなるべく満足しないといけません。テレセントリック性とは簡単に言うと撮像素子に対して垂直に光線が入射するという意味です。
ですのでミラーレスカメラに使用可能かもしれませんが、画面の隅の方ではいろいろ問題が起きるかもしれません。但し、各画素に付いているマイクロレンズの特性や、最近搭載機が増えている裏面照射型撮像素子を搭載したカメラ次第では問題が緩和されるかもしれません。

では次に横収差図です。

結構像面湾曲や非点収差が出ていますね。引用データがオリジナルの設計と異なっているのかもしれませんが、このレンズが設計された時代を考えると仕方がなかったのかもしれません。

russarはこのようなレンズなのだろうかと、色々と調査継続しましたら新russarのMTF特性グラフを掲載しているサイトを見つけました。
new russar MTF chart

オリジナル設計は光線収差、新russarはMTFグラフと比較データが異なって申し訳ないのですが、これを見る限り明らかに現代風にアレンジして再設計されていると感じました。
像高10.5mm以上では多分、非点収差が原因のメリジオナル方向MTFの悪化が認められますが、あまりうるさいことを言わなければ通常使用では十分な画質が得られそうです。
外見のデザインもかっこいいですし、物欲を刺激されます…